コミケに出た! そして通販について
2023.01.08
2023年12月30日に開催されたC103に参加し、お陰様で無事頒布を行うことができました。運営スタッフの方、当日近くのスペースでお話してくださった方、スペースにいらしてくださった方、本を手にとってくださった方、そして何より本をご購入くださった方、皆様本当にありがとうございます!
当日の様子
どうなることかと不安で前夜あまり眠れず、布団の中で「しかし時が経ち身体を移動させれば世界の中で私は何かしらの経験をし、そしておそらく、たった24時間後にはまたこの布団に戻って寝ているのだ」と不思議な気持ちで考えていました。
まだ冬の夜も明けやらぬうちから家を出て、冴え冴えとした月の下を歩いて駅に向かいました。新宿駅では『ポケモンコンシェルジュ』の大型サイネージが輝き、ディスプレイの中をハネッコが可愛く浮遊しています。電車を乗り継ぎ、設営に必要かなと様々なものを詰めて膨らんだリュックを前に抱え、片手で文庫本を開きつつ、りんかい線のぎゅう詰め車両内を目的地を同じにする人々の群れの会話に耳を傾けながら耐えると、国際展示場駅です。外気を吸って人心地がつき、エスカレーターを登ると、もうすっかり昇りきった朝日が迎えてくれました。スタッフさんたちの誘導に従って歩きながら視線を上げると、淡い水色の空を銀色のゆりかもめが輝きながら横切り、中空のホームに滑り込んでいきます。
さすが歴史あるコミックマーケット、スタッフさんの誘導も的確かつ迅速で、私は雑踏の一部となり、あれよあれよという間に会場に入りながら「ここはこういう仕組みになっているんだ!」という小さな発見をたくさんしつつスペースに向かいました。周囲を観察しながら見本誌を提出し、お隣のスペースの方にご挨拶し、見様見真似でわたわたと設営をすると、あっという間に40分ぐらい経っています。
今回印刷を依頼したのは 株式会社栄光さんです。現場搬入をお願いしたため、当日スペースに着くまで本がちゃんと出来上がっているか不安だったのですが、きれいに仕上げていただきました。箱から取り出した瞬間、表紙の色が細部まで出ているのを見て「美しいじゃんよ~」と呟いてしまいました。表紙のマットPPも良い!
栄光さんといえば今回、多忙につき印刷所の変更をお願いした異例の告知で話題になりましたが、私はその告知が出される数日前、割引率の高いキャンペーンを実施している日に入稿しました。おそらく同じ考えで入稿した方が多かったのかもしれません。初めての漫画同人誌で印刷所の選び方も今ひとつ分からず、私の寂しい懐で払える料金で、テンプレートや入稿形式が洗練されているように見えたので栄光さんを選んだのですが、大変お忙しい中本を仕上げていただいたことに心より感謝します。
準備を終えた後は椅子に座って、誤字脱字のチェックをするために拙作『FUNHOUSE』を読みました。何この漫画おもしれーじゃん、と思いました。そしてビッグサイトの天井の骨組みを描いていました。とてもきれいな模様を形作っている天井ですが、定期的に掃除とかされてるんでしょうか。
開場時間を過ぎると、一般参加の方々が現れ、会場が暖かくなってきます。私も天井スケッチの手を止めて、通路を行く人たちの姿を眺めていました。ある人は紙にプリントした会場マップを見ながら、ある人は戦利品を入れるための大容量のバッグを提げながら、ある人は外国語で話しながら、ある人はコスプレした姿で、ひっきりなしに目の前を通っていきます。こんなに眺めていて飽きない群衆がこの世にはあるのかと思いながら、テニス観戦者のように私は頭を右に左に向けていました。
そんなきょろきょろしている私のスペースの前にも様々な方がいらしてくださいました。そのときの嬉しさ、あまりじろじろお顔を見ても失礼かなと思って視点を彷徨わせる感覚、これがコミケか! と思いました。
SNSで情報を見ていらしたという方、おそらく通りすがりの方、Twitterなどで交流してくださりハンドルネームを存じ上げている方(だいぶ遠方にお住まいでは!? という方もいらしてくださって驚きでした)、様々な方がスペースに立ち寄ってくださり、会場の広大さや行き交う人々の多さを思うとそのありがたさに震えました。初参加で不安なコミケで拙作をご購入いただいたこと、感謝してもしきれません。大変励みになりました。ありがとうございます!
特にスペースを覗き込んでくださった海外出身者と思われる方に、不器用ながら英語で「良かったら読んでみてください」と話しかけ、『FUNHOUSE』を開いていただいた時に「Beautiful……」という囁きが聞こえた時の、歓びの狂おしさは気が遠くなるほどでした。「Beautiful」ですよ「Beautiful」!! 私が描いた漫画は「Beautiful」なのです!! 私の脳内には電飾をギラギラさせた巨大な櫓が建ち、その周りを「Beautiful! あそれBeautiful!」と囃しながら輪になって練り歩くネコやタコやアヒルのイメージが稲妻のようにスパークしました。
私は語学全般が苦手なのですが、コミケにおいて自分の本の購入を検討してくださる方とする英語でのコミニュケーションの楽しさは本当に破格で、ほんの短い時間と数語の発話でしたがとても貴重な経験になりました。自分は日常において英語で会話する機会の少ない環境に身を置いていますが、話すとしてもたいてい労働を円滑に済ませるような、”その場をしのぐ”ための発話ばかりです。ただなんとか意思疎通らしきものをして誤魔化し誤魔化し逃げるような英会話(思えば日本の学校における英語教育とは、試験や教諭の質問をやり過ごすことを目的とした”その場をしのぐ”ための語学学習でなくて何でしょう?)しか知らなかった私にとって、この数分間は革命的な、新たな世界を垣間見る亀裂が走るような経験でした。こんな切実さで英語を話せる機会が他にそうたくさんあるとは思えません。相手が手に取っているのは、時間と労力をかけて私自身が描いた漫画なのです! そんな状況で”その場をしのぐ”必要などどこにもないのです。コミケってすごい!!
「飛ぶように売れた」というわけではありませんでしたが、お陰様でトラブルも無く楽しい数時間を過ごし、私は満たされた気持ちで閉会時間を迎えることができました。
虚弱ゆえ重さに唸りながら残部を運んで配送会社に託し、荷をまとめ、畳んだパイプ椅子を机の上に置き(コミケって感じ!)、ゴミや忘れ物がないか指差し確認してスペースに一礼。屋外に出ると、珊瑚色の夕空に薄く雲が棚引いていてはっとするような鮮やかさでした。何人かの参加者さんたちはスマホを構えて空を撮り、一日を締めくくる思い出を記録しています。
ひとつの建築物の中に、人の想いと労力の膨大な集積があり、しかし気象や天体はそれにお構いなしに動いています。そこには人知の及ばぬ無造作な美しさがあります。私はビッグサイトの大階段を一歩一歩降りながら考えていました。これまで私が「記憶に焼き付けて永遠に忘れないようにしよう」と誓った情景や感情のうち、完全に輪郭を留めているものなど何一つ無いと。忘れる、忘れる、忘れる、と心のなかで唱えながら階段を降りました。この喜ばしい、特別な日を、私は完璧に記憶しておくことはできません。でも完全に忘れるまでの期間はきっと十分な長さがあるでしょう。
通販について
今回発行した同人誌はまだいくらか在庫が残っているので、通販に回したいと思っています。『バイオ』は海外ファンの多いジャンルですし、Twitterなどでも海外在住で購入したいというお声を、ありがたいことにちらほらいただいています。会場で海外出身の方とお会いできてとても嬉しかったこともあり、国外に販路があるプラットフォームに預けたいと思っています。
特に『過去の家』はかなり冊数が残っています。Web再録なのに100部刷っちゃったので……でも栄光さんのプランだと50部で作っても100部で作っても2000円くらいしか差がなかったんですよ! だったら100部刷っちゃうでしょ。
委託先について、本来はコミケ当日になる前に考えておくべきことだったのですが、そこまで手が回らぬまま今に至ってしまったというのが現況です。委託にかかる手数料や保管期間などを複数の候補から比較検討する、私はそういう作業が大の苦手です。
また、私はスマホを持っていないため(現代を生きる20代としてこの情報を開示するとマジで異常者みたいな目で見られます。わりと生きれますよ)、会場で状況を見ながら販路を考え、QRコードを読んでテキパキと登録を済ませ、会場から委託先に直接送ってもらう、というような機敏な動きが全然できませんでした。なので現在本は自宅にあります。
通販は1月中には始められたら良いなと思っています。お待たせしますが、それまでの間、現地で拙作をご購入いただいた皆様は私の面白い漫画を全世界に先んじて読むことができるという、始皇帝やルイ15世も羨み涙するような特権をお楽しみください。
開始しましたらまた改めて告知いたします。
現時点で見つけた作画ミス(主に塗り忘れ)に付箋を貼ったもの。きみもひとつでも多くの作画ミスを見つけてライバルに差をつけろ!